一般社団法人 日本運動器科学会

学会のあゆみ

日本運動器科学会のあゆみ

長野保健医療大学 学長
岩谷 力

日本運動器科学会の前身である日本理学診療医学会は、1988年11月に日本整形外科学会理事会で理学診療委員会の設置が決められたことを機に発足準備が始まった。同年12月に、高山 瑩、高瀬佳久、櫻井 實、大井淑雄、黒川髙秀、腰野富久、山本博司、岩谷 力の8名により学会設立の呼びかけが行われ、1989年4月15日に東京ベイ・ヒルトンホテル銀の間で200余名の参加者のもと、日本医大白井康正教授の議長のもと発起人集会が開催された。

本学会の発足時の時代背景を振り返ってみると、1960年代より強まっていた整形外科の外科治療志向性に反省の目が向けられ始めた時期であり、わが国のリハビリテーション医学の専門性の確立にむけ整形外科からの独立の動きを強めていた時期であった。整形外科が理学療法、作業療法への関心を減退させ、整形外科疾患の後療法、保存療法もリハビリテーション科に専門性に委ねかねない中で、日本整形外科学会理事会は、理学療法、作業療法、義肢装具療法の重要性を再認識し、経験主義的治療といわれた理学診療医学の学問的基礎を固め、科学的治療法としてアップデートしようとする意志を表明したのであった。この背景では、専門医制度と標榜診療科名をめぐって日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会との間には確執があり、本学会設立の是非について整形外科学会員のなかでも、賛否の議論が激しく交わされた。しかし、多くの整形外科医から、運動器疾患の診療に理学療法が必須であり、その学問的発展をはかる責任は整形外科医にあるという考えに対して同意が示され日本理学診療医学会が設立に向かうこととなった。

第1回の学術集会は同年9月2日、日本大学整形外科鳥山貞宜教授の会長のもと、東京市ヶ谷の私学会館アルカディア市ヶ谷において開催された。主題は「CPM」であった。第1回学術集会直前の会員数は1390名、勤務医が703名、開業医が687名であった。

1990年には学会誌「理学診療」が発刊された。発刊に当たって、鳥山貞宜日大教授、羽田春兎名誉教授、津山直一国立身体障害者リハビリテーションセンター総長、三浦隆行名大教授、金井司郎日本臨床整形外科医会会長、小野啓郎阪大教授、櫻井 實東北大教授が文を寄せられた。整形外科学の発展を担ってこられた先達は、理学診療医学(physical medicine)はリハビリテーション医学と重なりを持つが、その再興は手術療法に比重を置きすぎた整形外科を見直し、医科学の進歩をふまえた新たな運動器学を拓くものであること、専門性を高めてきた理学療法士、作業療法士などとの協働が重要であることを指摘された(理学診療1:1990)。

第2回学術集会は仙台市において1990年6月30日に東北大学櫻井 實教授の会長のもとに、第3回は1991年7月7日、大阪にて大阪医大小野村敏信教授の会長のもとに開催された。以来、北海道から九州、四国、中国と全国各地で学術集会を重ねて、2008年には日本医大伊藤博元教授のもとでの第20回学術集会と開催を重ねた。

本学会の活動と発展過程を振り返ると、従来の理学療法を振り返った時期、生物学医学研究成果の積極的導入を図った時期、臨床疫学研究に基づく臨床研究に取り組んだ時期を経て、今日では運動器疾患の予防、治療、リハビリテーション、介護に包括的に取り組んでいる。

第1期:理学療法の再認識(1990年代前半)
この数年間には、学術集会の主題として、CPM、筋力増強、牽引療法、腰痛の理学療法、理学療法による痛みの制御、スポーツと理学療法、装具療法がとりあげられ、運動器疾患治療における理学療法の再認識が進んだ時期であった。

第2期:運動器リハビリテーション萌芽(1990年代後半から2000年代初頭)
この時期には、メカニカルストレスに対する生体反応に関する基礎研究が進み、研究成果が運動療法、理学療法プログラムに応用され、臨床応用研究が始まった。経験的理学療法が科学的に見直され、新たなアプローチが芽生えた時期であった。

第3期: EBMに基づく運動器リハビリテーションの開花(最近数年間)
EBM(Evidence Based Medicine)の発展により、機能評価尺度の開発、無作為化臨床試験の手法が普及し、本学会も独自に無作為化比較臨床試験を手がけた。その結果は、研究成果を学術・診療活動に活かすのみならず診療報酬点数の改定要求に反映させることがでた。さらに、高齢者の運動器機能不全が国民の介護負担に密接に関係することが明らかになり、運動器リハビリテーションの重要性が社会的にも認知されることとなり、2004年に学会名を日本運動器リハビリテーション学会に変更した。

さらに、2006年4月の診療報酬点数表改定で運動器リハビリテーション料が収載されることとなり、その運動器リハビリテーション診療の質を高めるために、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本臨床整形外科学会と協力して、運動器リハビリテーション医師研修会を開催するとともに、診療所における運動器リハビリテーション質を高めるため、運動器リハビリテーションセラピスト研修制度を整備した。2008年4月には、日本整形外科学会に認定運動器リハビリテーション医制度が整備された。この時期に学会は飛躍的に会員数が増え、基盤が固まった。

2009年からは、日本整形外科学会のロコモティブシンドロームの提唱に呼応して、超高齢社会の重要な健康課題の一つである運動器疾患に起因する要介護状態の早期発見、予防、治療、管理に関する学術活動、研究支援への取り組みを強化した。時代の流れに対応して学会活動の発展を図る中、我々の視界は運動器リハビリテーションを越え、運動器の健康へと拡がった。そして2011年には、学会名を日本運動器科学会へと改めるに至った。学会名の変更には少なからぬ異論が寄せられたが、我々が設立以来20年間に骨関節疾患の理学診療を出発点として、運動器リハビリテーションを経て、真摯に運動器疾患・障害をもつ人々の治療、リハビリテーション、生活支援に取り組んできた帰結として、運動器の健康に包括的に取り組む学術団体として道を歩んでいることの理解に立って、会員の賛同のもと、学会名は日本運動器科学会に変更された。第23回学術集会は、2011年7月8、9日に遠藤直人新潟大学教授のもとで日本運動器科学会として、新たな一歩を踏み出した。

学会は近年、積極的に研究助成を行い、地域の包括的骨折診療システムの構築、新技術の開発などに貢献している。世界に先駆けて超高齢社会となったわが国では、90年の人生を支えるためには、全世代において運動器の健康増進、運動器疾患・損傷予防、リハビリテーション、身体活動支援に取り組まなければならない。医師が中核となり、関連職種が協働して運動器のヘルスケアに関する研究、実践活動を推進することにより国民の健康に貢献することが本学会の使命である。

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